探索者たち | 叡智の秘宝とは? | アイドル探索者 |
探索者ギルド『アイオーン』――。都市国家カルナスにはそう呼ばれる互助組合がある。
その業務は探索者たちの情報交換や、依頼の斡旋をはじめ、迷宮遺跡に関わる多岐に渡る。カルナスの探索者たちは、誰もがその恩恵に与り、時に力を貸すことで、円滑な関係を構築している。
魔物の討伐依頼をこなしたロスターと白艶は、地上に引き上げるとその足で、ギルドの窓口となっている酒場を訪れていた。
白艶は樽のジョッキを手に、早くも上機嫌だ。ジョッキから滴った雫が、白艶の胸の谷間を伝い落ちている。
ロスターの視線が、思わずそちらに釣られた。
ロスターは肩をすくめ、注文を取ろうとカウンターに向き直る。
その時、場所柄にそぐわぬ子供の声が響いた。
見るとまだ10歳にもなっていないであろう男の子が、背伸びしてカウンターに取り付いている。
ロスターと白艶、それに酒場にたむろしていた探索者の何人かがそちらに注目した。
少年は泣きそうになるのを堪えている。
――どうやら魔獣に盗まれた品の奪還依頼のようだ。
その後、ロスターの部屋では、パーシィの探索者試験合格を祝ってささやかな宴が開かれた。
花を添えるのはパーシィの心づくしの手料理だ。どんな代物が出来あがってくるか、最初は心配だったが、彼女の料理は素朴な味わいで素直に美味しかった。
酒を酌み交わしながら、ロスター達は今後のことを話し合った。
白艶にはロスターとパーシィの事情を教え、3人は改めて今後、協力して迷宮探索に当たっていくことを約束する。
パーシィに迷宮探索のいろはを教えたり、最近こなした依頼のことを話している内に、夜はあっという間に更けていったのだった。
宴もお開きにしようという時、パーシィが改まった顔で尋ねてきた。
少し考える素振りをしてから、パーシィはまた口を開いた。
叡智の秘宝の実態は謎に包まれている。むしろその正体への尽きぬ興味も、ロスターの大きな動機のひとつになっているくらいだ。
都市国家カルナスの豊かさは、大陸では稀有なものだ。断続的に続く戦争や、時に猛威を振るう魔物の脅威など、世界を取り巻く状況は厳しい。子供の頃、養父と各地を点々としたロスターは、その現実をよく知っていた。
だから探索者になるためこの街にやってきた時、繁栄を謳歌する人々に何か不条理なものを感じたことをよく覚えている。
カルナスの富を、もっと多くの人々に分け与えることができたら……。
その想いは単純なだけに、ロスターの胸中に深く根付いている。
赤ら顔でまだちびちび飲んでいる白艶に、ロスターは呆れ気味に呟いた。
ふと気になって、ロスターは同じ問いを返す。
パーシィは遠くを見る顔をした。
商業区のストリートでは陽気な歓声が湧き起こっていた。人だかりを掻き分けて覗いてみると、中心にいるのは見知った兄妹である。
アシュリーは歌姫の営業スマイルを浮かべ、手を振って観客の声援に応えている。その傍らではオイフェがリュートを手に、次の演奏を始めようとしていた。
歌姫アシュリーの噂はメトロニア宣言以降から急速に広まり、最近では熱狂的なファンがいるほどの評判となっている。
アシュリー達とは最近、歌姫の活動とブッキングして、共に探索できないことがちょくちょくあった。
残念だが今日も諦めた方がよさそうだ。ロスターとパーシィは背を向けて、その場を離れようとする。
その時だった。
こちらの姿を見つけ、アシュリーが駆け寄ってくる。
人垣が割れ、ロスター達の周りだけ遠巻きにするように空間ができた。
誤魔化そうかとも思ったが、それこそ水臭い。魔物の発生を告げると、アシュリーとオイフェは顔を見合わせて頷きあった。
ズルそうな笑みを浮かべ、アシュリーは潜めた声で付け足す。
頬を染め、そっぽを向くアシュリー。ややあって観客の存在を思い出したらしく、アイドルスマイルに戻って手を振り出した。