「おっ、到着したようじゃな。ルナよ、あれがそうか?」
「列車。塔と天空都市を繋ぐ。縦横の軌条。線路を走る。名前はカラコル号」
「うむ、確かな線の情報によると、あれに乗っている者がこの世界の事情に通じているそうじゃ。さっそく行ってみるぞ」
「あら、貴方達はもしかして……確か、マスコットの楓さんとルナさんね? てっきり、流民の子供が迷い込んでしまったのかと思ったわ」
「流民。確か塔に潜伏する。違法居住者のこと」
「わしらはそやつらとは違うぞ。まあ違法に入り込んだことには違いないがのう。今日はおぬしにこの世界のことを聞きに来たのじゃ」
「世界のことを聞きたい? えっと、話が見えないんだけど……」
「知識。シャルティア皇女は。皇宮ではオタク姫と呼ばれ。色んな事情に通じていると。聞いている」
「そこでわしらにも、皇女の知っていることを教えてほしいのじゃ」
「なるほど、つまりは取材ということね。いいわ、そういうことなら……」
「私をオタク姫と知って来たからには、貴方達の知りたいこと、たっぷりみっちり、懇切丁寧にレクチャーしてあげるわ!」
「おぉっ、急に乗り気じゃな」
「不穏。なにやら瞳を輝かせて。明らかに興奮している様子」
「ふっふっふー、だっていつもは私が話すとなぜかスルーされたり、逃げられたりするんだもの。この機会にたっぷり語らせてもらうわよ! それでどんなことを教えてほしいのかしら?」
「う、うむ……幾分テンションが不安じゃが、まずはこの塔について教えてほしいのじゃ」
「分かったわ。それじゃ塔世界の構造について、おさらいしていきましょうか」
「まずは基本中の基本ね。ここは塔世界ラトゥルラーダ。荒廃した地上に代わる、新たな生活圏として建造された理想郷よ。星空まで届く塔と、三層の天空都市によって成り立っているわ。厳格な階級社会であり、永年に渡ってラーダ皇国が統治、繁栄しているの」
「一方、天空都市に住まうことの許されなかった者達は、地上人として迫害され、過酷な日々を送っているわ。私は地上に、伝説の竜の調査にやってきて、その現実を思い知らされた。そしてそこでカイルと出会ったの」
「カイルは地上人でありながら、塔の戦闘技師でもあって……。ある時、地底で氷漬けになっていた反逆の竜リベリオを発見するの。それから色々あって、カイルがその力を受け継ぐことになるんだけど――」
「本当に運命的な出会いだったわ! 私は父上……陛下から特別に許しを得て、地上に降りてきて――。それでもここまでのことは、想像もしてなかった! 氷漬けの竜を実地調査できて、文献や古文書の蒐集ができれば御の字のつもりだったのに、まさかその復活に立ち会えるなんて! あぁっ、まだ夢みたい! そうだわ、文献と言えばこれまでどの記録にも、反逆の竜が人型を取るなんて書かれていなかった。だからあのリベリオの姿は、地上人であるカイルとの契約によって発現した全く新しい概念で、それがどんなにすごいかというと……!」
「圧倒。すごい早口で。ノンストップでまくし立てている」
「うむ、これがオタク姫と呼ばれる理由のようじゃな。逃げ出す者の気持ちも分かったような気がするのじゃ」
「えっ? あ、ごめんなさい、つい興奮して……」
「まあ、カイルが、何やらすごいことは分かったのじゃ。反逆の竜……つまり塔の支配に抗うのじゃな」
「疑問。ではシャルティア皇女にとって。カイルは敵なのでは?」
「シャーリーでいいわよ。ええ、まあ本当ならそのはずなんだけどね……」
「事情。ではシャーリーには。カイルと行動を共にする。特別な理由が?」
「それはもちろん、彼の戦いを間近で観たくて! だって反逆の竜の戦いなんて、お芝居や活動写真で想像するしかなかったのよ!」
「まさかそれで旅の一行に加わったとは……。いくらオタク姫でもさすがに呆れるというか、思いきりがよすぎるのう」
「ふふっ、よく言われるわ。まあ、それだけが理由というわけでもないんだけど……。というわけで次は旅の仲間について紹介するわね!」